廃バスでドリップコーヒーをいただく話

The Old Bus・静岡県沼津市

カフェを楽しむ人なら、一見風変わりなお店を押さえておくのも悪くない。

 

久しぶりのサイクリングで静岡の大瀬崎に向かう道すがら、小さな入江にブルーのレトロなバスがひっそり停まっていた。タイヤがパンクしており、すでに廃車になったもののようだが、窓から中をうかがうと、暗がりの車内に吊り電球がぶら下がり、棚やビンなどの調度品が置かれている。

奇妙な廃車をとりあえず写真に収めていたら、白い犬を連れた女性が向かいの建物から現れて、「寄って行かれますか?」と声をかけてくれた。話を聞くと、この廃車バスはカフェ&バーで、彼女はそのオーナーだという。

せっかくなので、と早速バスに足を踏み入れると、錆びついた車体からは想像もできない、モダンな空間が広がっていた。

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内装で目を引くのが、天井に貼り付けられたおびただしい紙片。よく見てみるとそれはどれも名刺だ。真っ白なものから茶色にくすんだ年季の入ったものまで、過去にここを訪れたお客の記録がそのまま室内装飾になっている。

海が真正面に見えるカウンター席を抜けてバスの後部に向かうと、腰を沈められるソファが3脚、ローテーブルを囲んでいる。ソロー『森の生活』をはじめ、何冊かの哲学書旅行記が詰まった本棚があり、静謐な書斎のようだ。

 

森の生活〈上〉ウォールデン (岩波文庫)

森の生活〈上〉ウォールデン (岩波文庫)

 

 

ハンドドリップのコーヒーをいただきながら、ゆっくり目を閉じる。窓からは爽やかな潮風がそよぎ、ゆっくりしたさざ波の音が聞こえる。何とも穏やかな時間だ。

店に置かれた小冊子を読むと、この店は2代目で、もともとは横浜で別のマスターが開いていたらしい。横浜の店をたたまなければならない状況になった時に、今のオーナー夫婦が申し出て廃車バスを引き取り、静岡までレッカーしてきたのだそうだ(詳しくは新聞記事を読むとよくわかる)。

廃バス、くつろぎ空間に 横浜で愛された“バー”、沼津へ|静岡新聞アットエス

海辺の廃車バスで思索に耽溺できる、他には代えがたい居心地の良さを感じられる空間だ。大瀬崎に行く機会があるなら、ぜひ立ち寄りたい。

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▲YOKOHAMA BAY CITY EXPRESS.横浜時代のオーナーがオリエンタル急行をイメージして作ったのだとか。

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▲元の店名「Jack Knife」が残っている。今の店名は「The Old Bus」。

 

なお、開店日時は公式Facebookページから確認できる。要チェックだ。

The Old Bus