ユングと性格と悪口の関係性

興味がある、といってもアカデミックにとはいえないのだが、私はユング(1875-1961)の考えが好きだ。正確に言えば、河合隼雄の著作を通じて知ったユングが好きだ。

 

ユング心理学入門―“心理療法”コレクション〈1〉 (岩波現代文庫)

ユング心理学入門―“心理療法”コレクション〈1〉 (岩波現代文庫)

 

ユングは、人間の心を理解するために、自らの臨床経験から、性格の類型化を行なった(LINEやFacebookで見かける「性格診断」の類は、ユング心理学を曲解したなれのはての姿とも言える)。

 

今回は、ユングが設定した性格の類型を判別する1つの材料に、「悪口」が絡んでいるのではないか、というお話である。

 

ユングは人の性格を分類するために、まず、「外向」と「内向」という2つの仕切りを設けた。

外向とは、自らの心の内部よりもむしろ外部に関心の中心があるタイプを指す。概して言えば社交的な性格といえる。精神疾患を発症するとしたら、ヒステリーを起こす。それだけ周囲が気になってしまう、ということだ。

内向とは、自己の外部よりも内部に関心を寄せるタイプを指す。概して言えば、内省的な性格。精神疾患を発症するとしたら、神経衰弱になる。自らの内側の想念がぶつかりあい、消耗してしまうのだ。

 

これが第一の仕切り。このうえに、独立した4つの象限がある。

物事を判断する軸と、判断する以前に知覚する軸。この両軸が垂直に交わっている。

判断軸の両端は、「好悪」と「因果」である。物の好き嫌いを決めるのも、物の因果関係を見極めるのも、いずれも「判断(分けること)」であり、それが両極端なものであることは、直感的にも理解できるだろう。例えば目の前の置物を見て、「かわいくて好み」と思うか、「これは何で作られているのだろう」と考えるか。前者のような人を「感情型」、後者を「思考型」という。

判断軸に交差する知覚軸は、「感覚型」と「直観型」に分かれる。置物の例でいえば、感覚型の人間はその滑らかな曲線に関心を寄せ、直観型の人間は置物をきっかけにして、置物とは全く関係のないヒラメキを起こす。

これら「感情」「思考」「感覚」「直観」の4類型のうち、自らがどこに位置するのか。言い換えれば、自分が最も重きを置いている性質は何であるのか。これを調べるために心理テストで何問も問題を解くわけだ。「あなたは思考重視タイプです」「あなたは直観に優れています」云々。

 

ところで、最近思うに、これらの類型は、心理テストを用いずとも、当人が頻繁に使う「悪口」を聞けばある程度推測できるのではないだろうか。というのは、人によって悪口の言い方に大きな違いがあるからだ。

たとえば私の友人が使う「最低の悪口」は、「バカ」でも「アホ」でもなく、「気持ち悪い」なのだそうだ。少なくとも私は、「気持ち悪い」を悪口として他人に用いることはほとんどないし、それが「最低の悪口」とは全く思わない。彼が音楽や絵画にずば抜けた才能を持っていることを思いあわせると、この友人の性質はおそらく、快・不快に鋭い「感覚型」なのだろう。

私にとっての最低の悪口は、大きな声では言えないけれど、「理解できない」「頭が悪い」だ。ここまで書いてきてその通りだと思うが、私は「思考型」だろうし、もしそんな私を「大嫌い!」と言う人がいればその人は感情型だろう。

 

悪口は、自らの価値観の表明でもある。なるべくなら、別の手段を通して知りたいものだ。

 

なお、唯一、直観型の人の悪口にはなかなか思い至らない。周りに直観型の人間が少ないせいもあるだろうし、そもそも私のユング心理学への理解が足りないせいでもあるだろう。耳に挟んだ人には、ぜひ教えていただきたい。